〜崩れる偏差値教育〜
学校教育や大学入試が大きく変わる、いわば教育の地殻変動とも言える2020年度の教育改革。皆さんの中には、何となく耳にしたことがある方もいるかもしれません。2年後に迫った改革であるにも関わらず、学研プラスが運営するプログラミングスクール「Gakken Tech Program」の調査によると、この改革について約6割の保護者が知らないということが明らかになりました。そしてこの教育改革の最初の影響を受けることになるのが、現在の高校1年生の学生たちということになります。この教育改革はこれからお子様が高校進学・大学受験を迎える場合、特に注目しておかねばなりません。このような現状を受け、株式会社Creative Groupの中原がこの2020年の教育改革についてお話していこうと思います。
①2020年度の教育改革の背景
2020年に明治時代以来と言われる戦後最大規模の教育改革が始まろうとしています。ガラケーからスマホに変化したあのインパクトを遥かに凌ぐ変化が日本の教育界に起きるといっても過言ではありません。どうしてこのタイミングでこのような改革が行われるようになったのでしょうか。それはAIの時代に突入した21世紀の社会を生き抜くために必要な資質・能力が大きく変わるというところにあります。例えば最近の研究では以下のようなことが予想されています。
・あと10〜20年で、49%の職業が機械に代替される可能性がある
(オックスフォード大学のマイケルA.オズボーン准教授の計算)
・2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、今存在していない職業に就くだろう
(ニューヨーク市立大学大学院センター教授のキャシー・デビッドソン)
・約3分の1の企業が外国人留学生を採用。特に1,000人以上の企業では2社に1社とその割合は増加する(ディスコキャリアサーチの「外国人社員の採用に関する企業調査」)
・2030年までには週15時間程度働けば済む
(経済学者ジョン・メイナード・ケインズ)
こうした社会の変化の激しい時代を生きる子どもたちが、社会の中で活躍できる資質、能力を育成する必要が出てきました。これまでの20世紀では未来がある程度予想できる確実な社会でした。そのため日本で求められたのは何よりも大量生産や効率性で、正確な情報処理能力を磨くため基礎知識学習が日本教育の中心、つまり「答えが決められている問題に対して、正解を導き出す能力」を養う画一的な偏差値教育が日本教育の中心でした。そんな時代に求められた人間像はマニュアルに合わせて正確に作業する事ができる人材です。しかし日本で養われてる能力が実社会で役に立たないことが増えつづけ、現代では「学生時代に勉強ができた人」では企業で通用しないケースがよくあります。さらに現代はインターネットによる情報革命やAIの進歩によるシンギュラティ[1]など「変化が激しく、未来が予測不可能で不確実な社会」になっています。そんな正解のない時代だからこそ、日本で求められる人間像は変革を迫られ、「予測不可能で不確実な社会の中で答の無い問題に取り組める人材育成の必要性」が出てきました。こうした状況を受けて文部科学省は「時代にあった新たな教育が必要」と考えて2020年の教育改革に乗り出します。つまりこの度の教育改革は「より時代に即した教育」のために行われるわけです。
②2020年度の教育改革で何が変わるのか
先ほど2020年の教育改革の背景をお話いたしました。このような動きの中で21世紀の社会情勢の変化を受けて日本の学力の定義も今変ろうとしています。OECD [1]が掲げる21世紀の学力は①様々なツールを知性を以て活用できる力②自分とは異なるグループと交流できる力③主体性をもって行動できる力の3つです。このように世界の教育機関が主体性・多様性・協働性を重要な学力として定義しています。これを受けて文部科学省は学校教育法第30条第2項「学力の3要素」を「1.主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度(主体性・多様性・協働性)。2.自ら課題を発見しその解決に向けて探求し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力。3.その基礎となる知識と技能」と再定義し、先に説明した「より時代に即した教育」を目指そうとしています。さて、前置きが長くなりましたが、2020年度の教育改革で大きく変わるのは以下の2つです。
[1] OECD=ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め35ヶ国の先進国が加盟する国際機関。OECDは国際マクロ経済動向、貿易、開発援助といった分野に加え、最近では持続可能な開発、ガバナンスといった新たな分野についても加盟国間の分析・検討を行っている。
I. 学校教育の改革
1つ目は新学習指導要領が制定されるということです。学校で教わる内容が大きく変わるのです。これまではどの学年でどの教科を教えるかを中心に定められており、「学んだことを理解しているか(知識・技能)」が評価対象でした。しかし新学習指導要領では「知識や技能を習得した上で、それをもとに自分で考え、表現し、判断し、実際の社会で役立てる」ことが要求されるようになります。つまり未来を生きる子どもたちに「①どのような力(資質・能力)を身につけるのか」「②何ができるようになるのか」まで踏み込んで求める教育に変わろうとしています。「①どのような力(資質・能力)を身につけるのか」に関しては先生からの一方通行の授業ではなく、生徒自身が主体的に参加することが求められるアクティブ・ラーニングを取り入れた授業が実施されます。「②何ができるようになるのか」に関しては授業カリキュラムが新しくなり、教科の構成や内容・目標が変わってくるようです。例えば、小学生であれば3・4年生で「外国語活動」が新設され、5・6年生で「英語」が教科化します。また高校では「公共」「歴史総合」「地理総合」「理数探究」が新設されます。このような変化の結果、今までの知識習得型の学びには正解がありましたが、これからは正解のないところから答えを探す力が必要となってきます。これは今の子どもだけでなく、将来子どもたちと共に働くことになる私たちにも必要なことでしょう。
Ⅱ. 大学入試制度の改革
そして2020年教育改革の最大の要点は、この「大学入試改革」が行われるということです。大学入試について新しい入試制度を導入するだけでなく、大学入試で求められる能力自体が大きく変わろうとしています。そして何より1990年から約30年間にわたって実施されてきたセンター試験が2020年に廃止され、新たに大学入学共通テストが導入されます。これまでのセンター試験は知識・技能を問う問題が中心でしたが、今回導入される共通テストでは「知識・技能の習得を前提に思考・判断・表現を中心に評価」されることになります。これはつまり今までの知識・技能に加えて新たに思考力・判断力・表現力を問われることを意味し、その分難易度が上がることが予想されます。例えば国語・数学では記述式問題が導入される予定です。この記述式の問題では、会話文、データ、図など多様なテキストを読み取り、解釈し、複数の情報を組み合わせて新しい考え方をまとめて記述する力が問われるようになります。さらに英語ではこれまでの「聞く」「読む」の2技能に加えて、「話す」「書く」の4技能で評価されるようになり、より総合的な英語学習が求められるようになります。またこれまでのセンター試験はマーク方式を採用していましたが、共通テストでは新たに2024年以降CBT方式を採用する予定です。CBT方式(Computer Based Testing)とは簡単に説明すると試験を全てコンピューターを用いて行うということです。そのため普段の日常生活からIT端末に慣れ親しんでおく必要が出てくるでしょう。大学の個別試験や私立大学試験では、志望理由書からプレゼンテーション、その他検定などの資格も採点基準になり、より多面的な能力や適性を評価する試験に変わろうとしています。
③崩れる偏差値教育と迎える激動の時代
大学入試が変われば当然高校での学び方が変わります。そうなれば必然的に中学校、小学校への影響を与えいくことになるでしょう。私は高3まで勉強を殆どせず偏差値も38程度の学生でした。ところがある意味これまでの教育で求められたのは最終的な試験での点数です。それまでの過程は評価対象ではありませんでした。点数さえ取れれば私のように高3生まで勉強をしてこなかった人間でも早慶MARCHのような大学に合格できたわけです。ところが今回の大改革で求められる力は知識・技能のみならず、思考力・判断力・表現力までに及びます。もう知識だけでは大学に合格できない時代がやってきます。戦後日本を支えてきた画一的な偏差値教育が今崩れ去ろうとしているのです。当然私のような逆転合格型は非常に出にくい環境になっていくでしょう。「今からでも大丈夫!本気で目指せば絶対に合格できる!」と言ってきた私としては非常に複雑な気持ちです。しかしそうは言っても教育改革は2020年以降段階的に行われていく予定です。今の中学生が大人になる頃にはグローバル化はより進行しているでしょう。さらに2045年には人工知能が人間を超えるとされるシンギュラリティに到達されると言われています。マニュアル化された作業はすべて人工知能が行っていくことになるでしょう。現に2017年現在、IoTや人工知能、VRなどの技術により、かつてない程のスピードで社会が変化し続けています。また、変化するスピード自体もどんどん速くなっています。ではこのような社会を生きていく子どもたちは、どのような知識や技術を身につけていけば良いのでしょうか。答えは、「分からない」です。全くわかりません。誰にも分からないのです。もはや特定の知識や技術を習得していても、これからの社会ではあまり意味をなさなくなるかもしれません。だからこそ子供達が身につけるべきは、知識や技術ではなく、課題自体を自ら発見していく力や、創造的な発想をする力、他者と協働してものごとに取り組んでいく力など、より抽象的な能力になるはずです。どんなに変化の早い社会においても、人間の根本は変わりませんし、科学技術によって代用できないことがあります。人間にしかできない能力を育てていこうというのが今回の改革の根幹なのです。このような激動の時代を生き抜く人材を育てる。これが今回の2020年の教育改革といえます。そして私はこの教育改革への備えは一生ものの価値があると考えています。もちろん「教育制度が大きく変わるので、それに対応しなければならない」のは当然です。しかしこのような激動の時代の中であっても自分に自信をつけて力強く生きられる力を身につけることが出来たならば、この先どんな時代になり、どんな変化が起ころうとも、自信を持って前向きに人生を歩んでいくことができると思います。そしてその途中でどれほど問題にぶち当たったとして乗り越えられると思うのです。Creative Academyでは単なる教育改革の対策としてではなく、この予測不可能で不確実な社会の中で、生徒により豊かな人間になってもらうために、より幸せになってもらうために、教育改革へのより本質的な備えをしていく所存でございます。具体的には今年度より2020年度の教育改革に合わせて、新学習指導要領に則った指導や先生からの一方通行の授業ではなく、生徒自身が主体的に参加するアクティブ・ラーニングを導入することになりました。我々はこれまで通り単に点数を上げるといった小手先の教育ではなく、生徒自身が一生懸命努力したことや頑張ったことに対して喜びや意味を感じ続けられる、そして何よりも自分が成し得たことに自信を持つことができる環境を提供し続けて参ります。その結果として、Creative Academyの生徒がここで得た成功体験をもとに自信という最強のエンジンを積んでこの激動の時代の中、大きく社会で活躍する人材になることを願ってやみません。この記事が2020年度の教育改革について、少しでも皆様の理解の一助になれれば幸いです。世間ではインフルエンザが猛威をふるっております。時節柄、くれぐれもご自愛ください。
株式会社Creative Group 中原一真